特集・ 福岡のあたらしい
フードカルチャーと仕事 
/前編

COLUMN

特集・ 福岡のあたらしい
フードカルチャーと仕事
/前編

今、行きたい、食べたい、
できることなら働きたい!
勢いのある福岡の飲食店、
その潮流と理由をフカボリ。

めしやコヤマパーキング/APUTEC CAFE +FLEGO

「福岡は食べものが安くておいしい」。それは「ディズニーランドは混む」と同じくらい、もはや当たり前すぎるみんなの常識。だからといって、福岡いいね!だけじゃ終わらないし終われない。何かと話題を集める4軒の飲食店オーナーから、福岡の最新フードカルチャーの流れと、そこでの働き方について、前のめりに取材。前後編と2回に渡ってお届けしよう。

福岡で競合が多く、
やたらとレベルが高い
あるジャンルとは?

 

▲オーナーの上山修さんは北九州出身。「小さい頃によく行った炉端焼き屋さんがエンタテイメントとして楽しかったというのが記憶に残っているんです」

 
「福岡って、個人店が強いんです」
スクリとした体躯とクリッとした目、パリッと張りのある声でそう教えてくれた上山修さん。福岡を代表する2軒の個人店で修行後、独立して始めた「炉端 百式」が大当たりし、満を持しての2軒め「めしやコヤマパーキング」も、あっという間にブレイク。今、勢いありまくる居酒屋のオーナーだ。

氏いわく「しかも特徴は、食のレベルが5段階あるとすれば2と3がめちゃくちゃ多い」こと。東京は超高級料理店から格安チェーン店まで、全部あるのに対し、福岡は言うなれば「上質なカジュアル店」の層がこってり厚く、しのぎを削っているという。「だから、レベルがすごく高くて」
 

▲開店前の仕込みもてまひまかけて丁寧に。「修行時代、とにかく常に自分で考えろ、勉強の仕方を勉強しなさいと言われていました」と上山さん。

 
食への好奇心が強く、料理のクオリティはとことん追い求める。でありながらかしこまらず、ざっくばらんなノリが好き。さらにコストパフォーマンスのよさは、何よりもの価値として受け止められる。そんな福岡人の気質がないまぜとなり、このカルチャーが生み出されているのだ。

ただそこから頭ひとつ抜けるために。上山さんが心がけているのが、プラス“FUN”の要素だという。「めしやコヤマパーキング」でいうと、フラットなオープンキッチンが象徴だ。
「もともと僕は料理人なので、カウンターが楽しいんですよ。ここに座っていると匂いも、切ってるところも見れて、シズルを間近で感じる。そういうお店って高いお店じゃないと少ないけれど、それをカジュアルな雰囲気で楽しめるんです」
 

▲京都のイノダコーヒーから着想したという、フラットなオープンキッチン。空間は設計・施工を行う「ゴォデザイン製作所」の大淵誠さんと二人三脚で仕上げた。

 

何でも求められる、
だからやる気も出る

 

▲お酒は日本酒や焼酎はもちろん、隣のワインバー『(食)ましか』とセラーを共有、選りすぐられたワインを提供する。また店と店の間の壁には小さな窓が設けられ、コミュニケーションがとれるという仕掛けも。

 
客とスタッフの“存在を感じあわざるを得ない”近さ。とうぜんそれは、働く上でのやる気となって返ってくる。

「要は対面接客なので、料理人が料理だけでなく、日本酒もワインもしっかり語れないと売れないんですよね。だから中の人間もお酒のことを勉強して、身だしなみひとつとっても、ちゃんとやろうとしてくれる」

普通は分業であるサービスと調理。それがどっちも学べるのは、未来の個人店オーナーを育てる土壌にもつながる。

「もちろんそれも強さなんですけど、ここでは単にお客さんに求められて、返せないと自分が恥をかくから。必要にかられると、みんな自らやるんです」

近年の盛り上がりは、県外からの移住組も関係しているという上山さん。「食材がいいから、昔は切って出すだけって店も結構多かったんです。でも県外の人が入ってきて、今すごく盛り上がってますよね。新しい血が入ってきて、いい感じでミックスされてるんだろうなって」
 

▲独立願望が強い、若い働き手が多いのも福岡の特徴のひとつ。チャンスがかたちになりやすい街とも言える。

 
 

育て、調理し、食べる。
「今ここ」で全てが
循環する食のかたち。

 

▲山と海に囲まれた福岡県北部の福津市。近くにある古墳は昨年、世界遺産として認定されるほど、歴史深い土地でもある。

 
福岡県福津市。博多の中心地からもほど近いこの地に、決して大げさでもなく、イタリアがあった。ナポリ出身のシルヴィオさんと地元出身の愛さん夫妻が手がけるファーマーズレストラン「APUTEC CAFE +FLEGO」だ。
 

▲燦然と金色に光る窯を背にしたカウンター台が、ピザ作りのステージ。準備をするオーナーシェフのシルビオさん(左)と、スタッフ。

 
彼らの1日は慌ただしい。早朝からシルビオさんはお店、愛さんは農園へ。その日に使う材料を農園のスタッフに伝えると、すぐさま収穫し、レストランに届けられ、仕込みが始まる。新鮮、という言葉をもはや超えている。

栽培するのは、珍しいイタリア野菜のほか「アヒルとか鶏とか、卵を産む動物もいるので、それも持ってきたり」と愛さん。

作物を育てる、調理する、食べる。「今ここ」ですべてが循環する、何も無理がない食のかたち。それはイタリア食文化の真髄でもあり、「TIME&PLACE」が見直される、ガストロノミーの考えとも一致する。

「もともとは主人の、イタリアの食文化を日本に伝えたいっていうのがスタートなんです。自分が子どもの頃からしていた食べ方を、自分が作った野菜と一緒に伝えること。料理人にどうやって作るかを伝えること。農園がなかったらレストランもやってない。ただのレストランで終わるなら、やらない方がいいよねって」
 

風土も水も人も、
食を愛する心も
イタリアに近い。

 

▲「地域にどんなにサポートしてもらってるか」福津の人の良さについて語りあう愛さん(右)とスタッフ。

 
レストランの場として、福津を選んだのは愛さんの地元だから、だけではもはやなく。「ちょっとイタリアに似てるんです。海が近くて」という愛さんの言葉に、シルビオさんも流暢な日本語で続ける。「すごく静かで緑もあるし、猪とか鹿の肉もあるし、魚も最高。田舎の雰囲気だけど、街も近い。イタリアから帰ってきて、空港からここまで30分。地下鉄も電車も整備されていて、素晴らしい。結構いろんな国トラベルしたけど、こんなところない」

またふたりが強調するのは地域の人たちの、食に対する意識の高さ。「周りの人が本当にいつも気にして声をかけてくれたり。普段は農作業の格好してるけど、ちょっとお洒落してみんなで来てくれたり。そういうのが一番うれしい」
 

▲店頭にはその日に採れたイタリア野菜をはじめ、チーズやパンなどの食材も並ぶ。食事した人のみならず、近所の人も続々と買いに来る。

 
レストランの広い厨房は客席からもよく見渡せ、スタッフがキビキビと働く。そのひとりにも話を聞いてみた。

「前はホテルで働いてたんですけど、廃棄率がすごくて。そういうのに何の罪悪感もなかったんですけど、それからイタリアに行って、今ここに来て、何も捨てたくなくなりました。畑のほうのスタッフがどんなに一生懸命働いているのかも分かるので、できるだけ全部使いちゃいたいって」
 

▲「今までは料理しか見えなかったのが、素材を見るようになった。たとえばにんじんだったら上の葉っぱもこんなに大きくておいしい。捨てるところって、ほんとにないんです」。

 
ふたりが思い描いた夢。それを日々の生活で実行することで、スタッフたちに伝わり、訪れる人たちにも自然に、着々と伝わる。そんな積み重ねこそが、ファストではなく、スローな文化を生む。

そこでふと、前出・上山さんの言葉を思い出す。
「福岡の人たちは包容力があるんです。もともとのレベルの高さと相まって、外部の人たちが入ってくることに対して、拒否反応起こさないんですよ。それが今、福岡が上がってるひとつの要素なのかなと」

めしや コヤマパーキング 福岡県福岡市中央区警固1-6-4 KENT KEGO A
TEL/050-5594-6305
18:00~翌1:00(L.O.24:00)
不定休
APUTEC CAFE + FLEGO 福岡県福津市渡153
TEL/ 0940-39-3659
11:30〜14:00、カフェ14:30〜17:30
不定休
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