特集・福岡のあたらしい
フードカルチャーと仕事
/後編

COLUMN

特集・福岡のあたらしい
フードカルチャーと仕事
/後編

今、行きたい、食べたい、
できることなら働きたい!
勢いのある福岡の飲食店、
その潮流と理由をフカボリ。

コーヒーカウンティ/万 yorozu

今、なにかと噂を呼び、なんだかやたらと気になる街、福岡。地元の人から絶大な支持を得るお店から、新しいフードカルチャーと働き方について考える特集コラム。後編は、「その一杯」に熱い想いを込める!コーヒーとお茶のお店をピックアップ。スタイルだけでなく、本質と向き合おうとする彼らの話から見えてきたこと。

産地とのつながりが
身近で強い福岡だから
コーヒーだって

 

▲福岡市外より電車で30分、ものづくりの街として知られる久留米の住宅街にひっそり、街の風景のなじませるように「コーヒーカウンティ」はある。

 
こんなにも瞬く間に!“サードウェイブコーヒー”という言葉が福岡に浸透する前から、久留米にあるロースターカフェ「コーヒーカウンティ」のスタンスは、その本質をついていた。つまりそれは農園に直に訪れて豆を買い付け、焙煎をし、販売する一連を、自分たちの手で行うこと。

「飲食店のシェフが畑に行って、農家と話して食材を仕入れるみたいな。僕の仕事も基本的には同じことで、そこをちゃんとやっていくのは当たり前のこと」
 


▲エチオピアやニカラグア、コロンビアなど、世界の産地から届く生豆を選別、機関車を思わせるドイツ「PROBAT社」製のロースターで焙煎をする森さん。

 
食文化の豊かさが、近ごろことに熱い眼差しを浴びる福岡。理由のひとつが、洗練されたセンスを持つ都市でありながら、生産地と限りなく近いことだろう。いわゆる食のトレーサビリティに対するリアリティと、高い意識を持つ人たちによって、福岡に妙味あるマーケットを作っているのだ。

「確かに福岡は、生産者とつながっている飲食店もすごく多いですよね。ただコーヒーの場合、そこに距離と言葉の壁があるので、簡単ではない」
 


▲現地の人たちがもてなすときに使う、手作りの小さな椅子を行くたびに買い求めては、自分や客用に置いている。

 

作り手を尊重しながら
伝えることのやりがい

 

▲焙煎する量は、日に平均すると30~35kg。4年前のオープン当初はその1/10にも満たなかったという。「毎日違うというか、同じ作業をやっている感覚はないですね」と森さん。

 
森さんは学生の頃から、規模の大小問わずさまざまなカフェや喫茶店で働きながら、自分なりのコーヒー道を突き詰めてきた。やがて焙煎に携わるうち「栽培されている現場を知らないとやれない。それなしでは仕事としてやっていけない」と、約3ヶ月間、ニカラグアを拠点とした中米各国のコーヒー生産地を訪問。自ら働き手にまじって農作業に勤しみ、コーヒーだけでなく土地の風土や暮らしを学び、現地の人たちとの信頼と強い絆を築いたのち、ここ久留米で焙煎所を開いた。

「コーヒーの仕事のおもしろさは、単純にものを仕入れて売るのではなく、焙煎というプロセスを通して伝えられること。お店のカラーも出ますしね。ただ自分はアーティストではないですし、あくまで伝え手、作り手との橋渡し的な役目なので、尊重しながら伝えられることにやりがいを感じています」
 

▲久留米店は現在、ロースター兼豆の販売所としての機能が大きいが、店頭でもドリップしたコーヒーを飲むことができる。

 

自分がやるべきことの
純度を高めていくこと

 

▲福岡市街でも注目されるエリア、高砂にショップをオープン。入ってすぐ、試飲ができる豆の販売コーナーがある。

 
ここ数年、福岡でもコーヒーショップの増え方はとてつもない。もともとカフェの数は他の都市に比べてもべらぼうに多く、その層の厚さに加え、今は若い世代が中心となってコーヒーシーンを引っ張っている。発信の巧みさにおいては、東京にさえひけをとらない。

「コーヒーカウンティ」もまた、2016年秋に満を持して福岡に進出。店内のアートワークやパッケージデザインしかり、1歩抜き出た「分かっている」センスで他を圧倒する。
 

▲抽象的かつグラフィカルなアートワークはすべて長尾周平さんが手がけた。

 
「自分たちが福岡のコーヒーシーンを引っ張っているとは、まったく思ってないです。ただやるべきことの純度を高めて、いつかこれが普遍的なものになっていけばいいなぁと。そのためにも今はいろんなことを発信しなきゃいけないと思いますし、影響力もないといけない」

そう、すべては「伝え手」としての役目があるから。

「最初から最後までやっているからこそ分かることもありますし、生産者を知っているからこそ伝えられることがある。もっと具体的なことを言うと、この関係性がないと仕入れられない商品もある。ありがたいのは、それを求めている人がいるからできること」

 

もてなし好きの
福岡人が集う
茶房&バーの
特別な空気感。

 


▲赤坂の茶房&バー「万 yorozu」店主の徳淵卓さんが長年構想していた店舗デザインは、お茶室よろしく端正でこぢんまりとした空間ながら、天井高によってむしろ開放感さえある。

 
今はコーヒーカルチャーが俄然!盛り上がる福岡だけど、背景をさかぼのっていくと、その実、お茶の文化もさかん。「八女茶」の産地として知られ、とくに伝統本玉露は生産量、質ともにトップクラス。「高級茶なら八女」と言い切る人も多い。

そんな八女茶をはじめ全国から仕入れた茶と菓子を、スペシャルな空気感で愉しめる場所が赤坂の「万 yorozu」。もてなし好きの福岡人にとって、客人を連れていくのに、まさにお誂えと言える茶房&バーだ。

「おもてなしって何?と聞かれると、究極のところ、その人のためにどこまで尽くせるかだと思うんです」

灼けた肌に白衣を身に纏い、神妙な表情でそう答えてくれたのは店主の徳淵卓さん。「だから、茶を汲むことは、人の想いを汲むこと」
 

▲お酒からお茶の世界へとのめり込むようになり、独特の思想とスタイルを持つ店主の徳淵卓さん。

 
徳淵さんはもとホテルのバーテンダーとして、お酒を提供する仕事をしていた。そんな中、あるレストランのプロデュースをきっかけに出会ったのが、東京の〈HIGASHIYA〉などを手がける「シンプリシティ」の緒方慎一郎氏。そこで得た氏のスタイルや哲学にたっぷり感銘と洗礼を受け、しっかり自分の中に取り込み、表現したのが「万 yorozu」だ。

「日本の、それも九州の魅力を伝えていくこと。どこでも何でも手に入る時代に、その土地でこそ味わえる贅沢。海外で日本の良さを伝える人は多いけれど、僕は行くのではなく、来てもらって感じて欲しいんです」
 

▲(写真上)茶は八女、伊万里や宇治など全国から仕入れ、その場でいただけるだけでなく茶葉も販売。写真は奥八女・星野村のやぶきたを使った自家製焙じ茶。(写真下)徳淵さんがデザインしたという渾身の茶釜が、カウンター中央に堂々と鎮座。

 
物理的な距離の近さもあり、昨今、アジア各国からのインバウンド人気で盛り上がる福岡。だが「もともと昔からあったことなんですよね」と徳淵さんは言い、ここ赤坂の街のルーツについて教えてくれた。小野妹子たちが唐の国に派遣される前、旅支度をしていたという宿場があったこと。平安時代には「鴻臚館(こうろかん)」と呼ばれる海外交易の施設があり、近隣の国々から訪れた客人をもてなす迎賓館であったこと。そこには中国から茶の種子を持ち帰ったとされる最澄や空海もいたこと。

「場の持つエネルギーが、1500年経った今もある。だからこそ、その想いを継いで、迎え入れることができたらなと思ったんです」

大切にしているのは、「もの」を売って対価を得るのではなく、その人が過ごす「時間」を提供すること。「その昔『休憩』というのは、小川のほとりで、小鳥のさえずる中、風を浴びながら時間を過ごすことだったそうです。ただそれは現代でもあって、“休んで憩う”という時間の捉えかた、日本茶をいただくひとときを通して、その空気感を還元できたらいいな、と」
 

▲夏は冷茶、また夜はワインやシャンパーニュなど酒類も提供するバーとしての機能も。

 

その美しい仕事に
決まりごとはあるが
マニュアルはない。

 

▲緊張感のある空気を作るスタッフには、洗練された美しい身のこなしを求められる。お菓子を盛る所作ひとつにとっても、しかり。

 
そう、「万 yorozu」で味わえるのはよもやお茶やお菓子だけでなく、自分のために一杯のお茶を淹れてくれるという過程。「茶道」というと急にかしこまってしまうけれど、実はその本質にあるもの。

ゆえに所作は美しく洗練されていなければならず、徳淵さんをはじめ、白衣を纏うすべてのスタッフにすべからく浸透している。「決まりごとはあるんですけど、マニュアルではなくて。頭に入っても、体が動かないと意味がない。なので7割の知識と、3割は見て学ぶこと。そうすることで、少しずつ整理されていく。美意識を持って空間、時間を共有することでお茶を淹れるだけじゃない、自分なりのサービスが身に付いてくると思います」
 

▲温度を変えて淹れることで、同じ茶葉でも全く異なる味わいをもたらす。そんな繊細さもお茶の魅力。

 
この空間に身を置き、いいものに触れ、美学を磨く。そうすることで生まれる発想やアイデアもある。「2階はイベントスペースになっているので、そこでやる企画や商品開発など、いっしょに作っていなかきゃいけないことも多い。大切なのは、いいものに対してぶれていないこと。感覚として、同じところを向いていること」

働くということが、自分にどんな影響をもたらすのか。人が人としての魅力を高めるのに、仕事は何を導いてくれるのか。「一杯」の本質と向き合う2軒のお店が、そっと指し示してくれる。

コーヒーカウンティ久留米(Roastery) 久留米市蛍川町10-5
TEL/0942-27-9499
11:00〜18:00
火曜定休
コーヒーカウンティ福岡(Coffee Bar & Shop) 福岡市中央区高砂1-21-21
TEL/092-753-8321
11:00〜19:30
水曜定休
万 yorozu 福岡県福岡市中央区赤坂2-3-32 赤坂MOKUZO
TEL/092-724-7880
15:00~深夜頃迄
(2階の分室はギャラリースペース)
日曜定休
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