
RECRUIT
高級レストランの技を
ストリートの感性で
星付きのレストランで培った技を生かし、
カフェの軽やかさとセンスを携えながら、
日本の朝食カルチャーを変えていく。
株式会社PATH (株式会社Rojiura、株式会社Tangentes)
「星付きレストラン」という言葉から、あなたはどんなお店を思い浮かべるだろう。瀟洒なシャンデリア?白いクロスにコックコート?今、東京で最もヒップなレストラン、代々木八幡「PATH」。若きふたりのオーナー、シェフ原太一さんとパティシエの後藤裕一さんは、ともにミシュラン星付きレストラン出身。しかし“その頭”で一歩足を踏み入れると……一流のクオリティながら、カフェやストリートカルチャーの空気をたっぷり含ませた、彼らならではの店づくりと、仕事への向き合い方とは?
星付きフレンチで
出会ったふたりが
ともに店をつくる

▲看板も何もない、素っ気ない外観。ガラス張りの向こう、お菓子を作るスタッフの姿がアイコンになっている。
それは、ほんの数年前のこと。フランスの「トロワグロ」で、アジア人初のシェフパティシエを務め上げた後藤裕一さんが帰国。目的は日本でのお店立ち上げのためだったが、独立したいという思いも拭いきれず。でも、どうやって?そこで相談を持ちかけたのが、以前ともに新宿の「キュイジーヌ[s]ミッシェル トロワグロ」で修行をした、友人の原太一さん。そう、彼はすでに自身のお店「Bistro rojiura」を立ち上げていた。
後藤「僕はレストランを主戦場として働いてきたんで、お菓子屋さんをやりたいわけじゃなかった。どういう形があるのかなと考えた時、大前提として、そこには美味しい料理やワインがある店。だから、ひとりだと絶対やりきれないなと思って」
原「僕も、どんなお店なら後藤らしさが出るかな?と相談に乗ると同時に、自分も次の展開を考えていたんですね。なんとなくイメージしていた“朝ごはん”というテーマと、彼の作る一流のお菓子を、普通の人たちに知ってもらえたら楽しいなという思いが合わさって『だったら、一緒にやったら面白いよね』と」
▲オーナーシェフの原太一さん(写真手前)と、後藤裕一さん(写真奥)。新宿のミシュラン二つ星『キュイジーヌ[s]ミッシェル トロワグロ』でともに修行した、いわば戦友だ。」
料理だけじゃない、お菓子だけじゃない。どっちが主役でもなく、いろんな要素が混ざり合ったお店を。レストランの美味しい食事を、朝も夜も食べられる場を。
ふたりが思い描く、常識と時代をホップするような自由な発想は、空間づくりにもくまなく生かされている。
ルーツはカフェ。
好きなものが
混ざりあう醍醐味
▲奥に長い店内はいつもほの暗く、レコープレイヤーから流れる音楽とともに、どこか秘密めいた空気が漂う。
原「好きな音楽やインテリアに囲まれて仕事ができるというのに、単純に憧れてたんです。昔DJをかじってたり、バンドをやってたり。そういう、本当にかっこいいものを掘ってくのが好きなので」
そんな原さんのルーツのひとつと言えるのが、2000年ごろに起きたカフェブームだ。オーナーの個性を存分に表現したお店が続々と生まれ、人々はクラブで夜遊びを楽しむような感覚で、こぞってカフェに訪れた。原さんはその時代の洗礼を受けたひとりだという。
原「ただ将来、自分がやるんだったら、そういう場でも美味しいごはんを出したい、というのは常に思ってたことで。だからカフェじゃなくて、一流のレストランでがっつり修行をやったんです。それをカジュアルに落とすのは、後からいくらでもできると思ったので」
▲店内のセラーには100種類以上ものビオワインが常備。サービススタッフにもワインの知識が求められる。
後藤「太一は、もともとそういう外国人っぽい感覚があったんですけど、僕の場合は囚われまくってました。仕事として、お菓子を作ることだけにフォーカスしてましたし、なんとなくファッションとか、家具とか、音楽とかに憧れはありつつも、どうやって踏み込めばいいか分からなくて」
そんな価値観が一変したのが、フランスの現場を目の当たりにしてから。日本でもやもやしてたことも「これでいいんだよな」と、本質の部分で解放されたという。
後藤「それこそ『トロワグロ』でも、イケアのお盆を使ってたんですよ。『カッコいいなら、別にいいじゃん』って、全然囚われてない。お客さんや自分たちがいいと思うものを置いて、トータルで好きになれる空間を作れればいい。それもあって僕もお菓子だけ、じゃなくなった。いろんなものがちゃんと集まって、混ざってこそ面白い!と」
▲器は若い世代の作家にオーダーして作ってもらっている。「そういう人たちと組んでお互いをフックアップできたらいいなっていう気持ちが、昔からありました」(原さん)
専門性を持った
スタッフが集い、
生まれる一体感
働きかたにおいてもまた、彼らから影響を受けた部分が多いという。
後藤:「日本にいた時はみんながっつり働いて、しんどくても修行だからって我慢して。でも、結構向こうの人たちって、休む時は休むんです。その使い方も上手くて。生きてることと、働いてることが直結しているような」
原:「ただ仕事となると、その向き合い方は全然違いますね。美味しいものをつくるためにはすべて理由があって、すごく大変だと分かりました」
▲パンも、お菓子も、ハムも、ストックも、すべて一から。ゆえにカウンター内のキッチンはいつも大忙し。
「PATH」における最も壮観な「眺め」は間違いなく、カウンター内の全てを見渡せるキッチンだろう。大勢のスタッフがところ狭しとひしめきあいながら、せわしなくも美しく、各持ち場で仕事をこなす姿は、見ていて気持ちいい。
原「朝も夜も、高級レストランと変わらないくらいのクオリティでやろうって僕たちは思っているわけだから。たとえば、ちょっとはねたソースを拭いて出すのか、拭かないのか。お客さんは全然気にしないかもしれないけど、本来の盛り付けでないのであれば、それはベストではない。そういう気持ちを持ってる人と、僕は一緒に働きたい」
またパティシエ、シェフ、サービススタッフと専門性を持たせているのも特徴だ。
原「このふたりで始めた、ってところからそうなんですけど。やっぱりお菓子は、お菓子を学んできた人がつくるのが美味しい。料理なら料理、ワインならワイン。もともとが分業制のフレンチ出身なので、なんとなくその感覚は残ってて。それぞれに特化した人たちが集まったほうが、お店の完成度や、中身の濃さはあるよねって」
後藤「何かをつくってればいい、だけじゃない。ある程度の最低レベルの言葉使い、仕事しつつも視野を広く持つとか。料理だけとか、サービスだけでお店はできないので。専門性のある人が集まってるからこそ、ちゃんとチームで働いてるっていうのを感じてもらいたい」
好きなことを
突き詰めれば
カルチャーになる
▲昼の営業が終わり、夜の仕込みをしたあとは、自分たちでまかないを作って、みんなで食べる。それも日々の習慣だ。
レストランのクオリティと専門性、カフェの持つセンス。両方分かっているからこそ、目指すバランスがある。その微妙な感覚値を、スタッフとどう共有しているのだろうか?
原「毎日何十皿と作って、僕が都度『これ拭いて』とか『高さ出して』とか言ううち、僕たちが何が好きかは分かっていくはず。なので『ここに入ったんだから、一回染まってみよう』って柔軟な感じの人の方が、ハマってくれるような気がしますね。もちろん自分を出したい人は出せるけれど、通らないこともあるんだよ、ということは分かって欲しいと思う」
日本の飲食店のあり方、食のカルチャーを変える。これからは「PATH」のふたりが、その役割を担う気がしてならない。
原「まずは、自分たちがやりたいことをやってます。それをいいと思ってくれたらうれしい、という感じ。それが、こんなに多くの人に来てもらえるようになって。でもそういうのが、カルチャーが始まる何かじゃないかと思う。パンクとかだって、ただ社会に不満のある若者が集まって、それがいつの間にか広がっていったわけですし。好きなことをやるっていう、それがある意味カルチャーなのかなと思うんです」
「あの当時はよかった」という話をみんなするけれど、それだけ言ってても何も始まらない、という原さん。
原「いつの時代にも、そうやってカルチャーは生まれ続けていて。自分の目の前の好きなものを、どうやって突き詰めていくかじゃないかと思います。僕もこういうお店をつくって、すると知り合いも朝ごはんのお店をつくったりして。そうして広まっていけば、日本の食文化って変わると思うんです。それがきっと、当たり前になっていくと思うから」